大腸菌の力を借りてほしいDNA配列を手に入れる:遺伝子組換え

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ここからはより分子生物学的な内容に入っていきます。
いわゆる「遺伝子組換え」という技術についてです。
以前紹介した核酸の塩基配列決定法とともに、現在の研究には欠かせないものとなっています。

目の前のDNA溶液はどんな配列?:ジデオキシ法による配列決定
塩基にはACGTUがあるが、もし現実的に目の前にDNA溶液があったとする。どうやってその配列(並び方)を知ることができたのだろうか?当然肉眼では見えないので、色々と工夫をする必要がある。今回は塩基配列決定法の元となったジデオキシ法について解説する。

遺伝子組換えの必要性はどこにあるのでしょう?
それは、ほしい領域はゲノムDNAに比べて非常に少ないということを考える必要があります。

たとえば、10 Lの培養液を用意し、大腸菌を1010個/mLまで培養しても、DNAは0.1 mg程度しか得られません。
そこからさらに、ゲノムDNAから目的の配列部分のみを取り出す必要があります。

精製過程でもロスが避けられないので、必要量のDNAを得るのはかなり大変な作業となります。

ここで組換DNA技術というのが確立し、特定DNAを単離、増量、改変することを可能にしました。
つまり、菌体内にほしい配列を持ったDNAがたくさんある状態を作ることができます。

今回はこの遺伝子組換えによってほしいDNAを手に入れる手順について、見ていきましょう。

クローニング法によるDNAの増幅

ここでは、以下の項目に分けて紹介していきます。

  1. ほしいDNA断片を得る
  2. ベクターと組み合わせる
  3. 目的DNA断片を含むベクターを大腸菌に形質転換させ、複製
  4. 形質転換された大腸菌の選別
  5. 選別した大腸菌の培養・精製

ほしいDNA断片を得る

まずは元となるDNA配列を手に入れなければ始まりません。主に以下の方法が考えられます。

  • 制限酵素で切り出す

ゲノムDNAもしくはほかのベクターからほしいDNA配列を切り出してきます。すでに発現系を持っているけれどもプロモーターなどを入れ替えたいときに有効です。
「切る」とは、ヌクレオチド同士をつないでいるリン酸ジエステル結合を加水分解することです。ここで特定の塩基配列を認識してDNAを切断するエンドヌクレアーゼである制限酵素を利用します。

エンドヌクレアーゼ:DNA/RNAの内部の塩基配列を認識し、リン酸ジエステル結合を切断する酵素
⇔エキソヌクレアーゼ:DNA/RNAのからリン酸ジエステル結合を切断し、モノヌクレオチドを生じる酵素
  • ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅

詳しくは以下の記事で解説しています。

ほしいDNA配列を増やす:ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
PCRは自分がほしいDNAの配列を「増やす」技術である。キットも豊富で、増やすための酵素も失敗しにくいように改良されている。私は学部時代の化学実験でも行ったが、実験は難なくできた。しかし、レポートでプライマーの設計法などで苦しんだ記憶がある。ということで、ここでまとめてみたい。
  • 化学合成で断片をつくる

タンパク質の発現が目的であればPCRが圧倒的に多いでしょう。短い配列ならば化学合成も手です。

ベクターと組み合わせる

通常、ベクターには自身の複製に必要な配列を含んでいます。
この配列を持つベクターが大腸菌内にあると、増殖するときにベクターも一緒に複製してくれます。

発現用のプラスミドを制限酵素によって切り、上記で切り出した配列とつなぐ酵素であるリガーゼによって組み合わせると、目的の配列を含んだ大腸菌プラスミドを作製することが可能となります。

目的DNA断片を含むベクターを大腸菌に形質転換させ、複製

目的とするプラスミドが完成したら、クローニング用の大腸菌に取り込ませます。この操作を形質転換(トランスフォーメーション)と言います。

形質導入(トランスフェクション)と似ているが、異なる用語であるので注意しましょう。

とはいえ、いきなり大腸菌とプラスミドを混ぜても取り込んではくれません。プラスミドを持つというのはエネルギーを使うので、大腸菌としては基本的に保持していたくないのです。

そのため、形質転換には、まず大腸菌を受け入れる状態にする必要があります。
このプラスミドを受け入れやすい状態はコンピテント状態といいます。

よくやられるのは大腸菌をカルシウムなどで処理すると、細胞壁が弱くなってコンピテント状態になります。
市販されているクローニング用の大腸菌はすでにコンピテント状態になっているものも多いので、たくさんクローニングをする方には便利です。

コンピテント状態の大腸菌にプラスミドを混合すると、ようやく菌体内にプラスミドが入ります。
とはいえ、形質転換の効率というのはせいぜい0.1%程度です。

ということは、形質転換された大腸菌とされていない大腸菌を選別する必要があります。

形質転換された大腸菌の選別

そこで、ベクターに抗生物質耐性遺伝子をいれておき、寒天培地に抗生物質を添加しておくことで選別します。

寒天培地は培地に寒天を加え、シャーレに流し込んで固めたものです。
寒天培地にはベクターに入っている耐性遺伝子に対応する抗生物質を添加しておきます。この上で大腸菌が育つと、塊(コロニー)を形成するはずです。

寒天培地に抗生物質を撒いておくと、ベクターを持たない大腸菌は抗生物質によって死滅します。
しかし、ベクターを持つ大腸菌は耐性遺伝子を持っているため、生き延びる事ができます。

よって、この寒天培地上でコロニーを形成した大腸菌は形質転換されたものであると判断することができます。

とはいえ、注意しなければならないのが「サテライトコロニー」です。
培養してから時間が経ってしまうと、抗生物質の効果が薄れてきます。そうするとベクターを持たない大腸菌でも生き延びる事ができてしまいます。これがサテライトコロニーです。

形質転換を行ったあと、1晩経ったらインキュベータから取り出すのがベターです。

選別した大腸菌の培養・精製

コロニーを抗生物質入りの液体培地で培養して増殖させます。
抗生物質のおかげで、ベクターを持った大腸菌のみが増殖することができます。

ある程度増殖したら、大腸菌を集めて破砕・精製を行えば、無事DNAを獲得することができます。
破砕・精製に関しては別の記事でまとめたいと思います。

最後に

今回はほしいDNAを得るまでの流れをまとめました。

こうして書くと遺伝子組換えは簡単な技術に見えるが、やはりそこは生物(なまもの)です。
それぞれのステップには実験を成功させるために、気をつけるべきポイントがあります。
原理を理解し、実験操作の意味を理解することが重要であると考えます。

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公開日:2017年11月1日