タンパク質構造を安定化する「力」

タンパク質は翻訳されて終わりではない。
機能を発揮するためには、正しく折りたたまれなければいけない。
これをタンパク質のフォールディングという。

フォールディングには様々な力が関わってくる。
今回はタンパク質の構造を決める力について見ていく。
さらに、構造が決まったあとのタンパク質の揺らぎに関しても触れる。

概要

タンパク質構造の安定化に必要な力

  • 疎水効果=疎水性の部位が水との接触をできるだけ避けようとする力→最も構造決定に大きな寄与をする
  • 静電的相互作用:あまり大きな寄与はない
  • 水素結合:エネルギー的な寄与は小さいが、ネイティブ構造を決める要因
  • イオン結合:引き合う力は強いが、構造への寄与は小さい→アミノ酸の保存性が低い
  • ジスルフィド結合:共有結合の形成によってフォールディングのパターン決定に寄与
  • 金属:アミノ酸同士を架橋することによって構造を決定。モチーフを作ることが多い

実際のタンパク質構造はしっかりと固定されているわけではない
→小さく早い構造変化(ゆらぎ)を繰り返しており、小分子の出入りに必要とも言われる

疎水効果はタンパク質の安定性に最も重要

疎水効果は非極性物質が水との接触をできるだけ避けようとする効果である。
非極性アミノ酸側鎖が内部に集まるのは、疎水基のまわりに水分子が整列して、エントロピーが減少するためである。

タンパク質側鎖の疎水性/親水性傾向はハイドロパシー(疎水親水度)という値で表せる。

部位特異的変異の導入による安定性への影響の大きさは、以下のような順番となる。

  1. アミノ酸残基の疎水性を変えた
  2. 立体的な形を変えた
  3. 側鎖の大きさを変えた

ということで、側鎖の疎水性がタンパク質の安定性に最も大きな影響を与えている。

静電的相互作用

ファン・デル・ワールス力

よく充填されたネイティブなタンパク質の内部では、比較的弱いファンデルワールス力が安定性に貢献している。
この力は近距離でのみ働き、タンパク質がほどけると働かなくなる。

水素結合

水素結合はタンパク質の構造に大きく寄与しているイメージを持っているかもしれない。

しかし、タンパク質構造の特徴ではあるものの、安定性にはほとんど寄与していない。
これは周囲の水分子と水素結合を形成することで、エネルギーロスを補填できるためである。

一方で、水素結合がないとただ一つのネイティブ構造を選び出して固定化することができなくなる。
つまり、水素結合によるタンパク質の安定化エネルギーが失われる。
そういう意味では、水素結合はネイティブ構造の決定に重要であることが言える。

イオン結合

タンパク質間で正負にイオン化した解離基間(ex. LysとArg)の会合をイオン対、もしくは塩結合という。
解離基は親水性であるために分子表面に多く存在し、イオン対を作る。

イオン対が引き合う力は強いが、ネイティブなタンパク質の安定性にはあまり寄与しない。
イオン対生成によって「側鎖のエントロピーが減少」し、「水和のエネルギーが損失」される。
しかし、静電相互作用による自由エネルギー変化では上記の損失を補うには不十分である。

また、イオン結合には正負のイオンがあればいいので、相同タンパク質間での保存度は高くない。

ジスルフィド結合は細胞外タンパク質を架橋

Cys残基のチオール基間で形成されるジスルフィド結合は、折りたたまれる際にポリペプチド鎖内、あるいは鎖間にできる結合である。

Cys残基の修飾、または部位特異的変異でジスルフィド結合を欠失させても、十分活性なコンフォメーションに折りたたまれる場合もある。
つまり、ジスルフィド結合自体が構造安定化には必須ではないと考えられている。

しかし、共有結合によって構造を固定化する点では、水素結合よりも非常に重要な役割を担う。

細胞質は還元的環境なので、細胞内のタンパク質にジスルフィド結合がかかることはめったにない。
細胞外の酸化的環境に送り出されるタンパク質にかかる。
細胞の外は温度やpHが変わりやすく、タンパク質にとって過酷な環境なので、ジスルフィド結合による固定化が必要なのだろうと考えられる。

金属イオンは小さなドメインを安定化

金属イオンがタンパク質分子内で架橋をつくることがある。
有名なのが、核酸結合タンパク質に見られるジンクフィンガーモチーフである。

25~60残基のペプチド部分が1~2個のZn2+イオンを取り囲む。
配位子としてはCysとHisあるいはAspやGluの側鎖が四座配位するパターンが多い。

Zn2+によって、比較的短いペプチド部分を安定的に折りたたませ、核酸と相互作用できるようにすることができる。

このモチーフを形成するのに亜鉛は以下の理由で適している。

  • d軌道が電子で満たされている→様々な配位子(S, N, Oなど)と強く相互作用できる。
  • 酸化状態が一つしかなく、細胞内で酸化還元の影響を受けない。

タンパク質は動的構造を取る

ここまで、様々な結合の構造への影響を紹介してきた。
「安定化」や「固定」という言葉が多く使われており、タンパク質はある固有の構造を取るものだ
と言うイメージを持っている方も多いだろう。

しかし、それはある瞬間を静止画で切り出してきたものに過ぎない。
実際はタンパク質は固定の構造を取らず、揺らいでいるとされる。

例えば、筋肉内で酸素の拡散を担うヘムタンパク質のミオグロビン。

結晶構造といえば左のリボンモデルをよく見る。
タンパク質はかなりスカスカなように見える。
しかし、これは側鎖を省略して描かれているためである。

そこで、タンパク質表面の原子半径を反映した形として右のサーフェースモデルを示す。
これを見ると、かなり隙間なく充填されているように見える。

酸素分子が結合するのは、図中赤で示した「ヘム」という分子である。
サーフェースモデルを見ると、酸素分子が入り込む隙間が無さそうにも見える。

実際にはミオグロビンの構造は揺らいでおり、酸素が通れるほどの隙間ができる瞬間が出てくる。
その瞬間に酸素が入ってヘムに配位する事ができるのである。

このようにタンパク質の構造はゆらぎながら、微妙なエネルギーバランスの上に成り立っている。

もしかしたら、揺らぎによって活性の強さ(今回の例では酸素分子の結合能)が決まるということがあるかもしれない。
そう考えると、非常に興味深い物理化学的性質であると思う。
まだ「揺らぎ」に関して研究がそこまで進んでいるわけではないので、今後の発展が待たれる。

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