タンパク質を精製した後には、そのタンパク質がどのくらいの濃度なのかを知る必要があります。
そうしないと、「どのくらいのタンパク質を使用して実験を行ったのか」が抜けて、定量的な評価ができなくなってしまいます。
このことから、実験前にはタンパク質の濃度を定量することが必要となります。
もし、対象のタンパク質が酵素であれば、検出しやすい(色が出るなど)生成物をデザインすれば良いです。「生成物のできる速度は酵素量に比例する」ことを利用すれば定量することができます。
しかし、現実はそのようなタンパク質だけではありません。
ではどのように溶液中のタンパク質の量を知れるでしょうか?
もしタンパク質が純度よく精製できているのであれば、分光法を使った定量法が使えます。
「純度よく」というのは電気泳動のバンドが目的タンパク質1本だけが目安です。
今回はこの分光法を使った定量法を簡単に原理から見ていきましょう。
その前段階、精製の部分に関しては別記事でまとめています。
<タンパク質の精製について>


吸収分光法を利用したタンパク質濃度定量
タンパク質の光の吸収はランベルト・ベールの法則に従う
溶液中に溶けている物質(溶質)の中には、特定の波長の光を吸収するものがあります。
タンパク質の場合、芳香族を持つPhe、Tyr、Trpが紫外(UV)領域に吸収を持ちます。
「その物質がどの程度光を吸収するか」を表す吸光度について、以下のランベルト・ベールの法則が成り立つことが知られています。
ここで、光路長とは、「光が溶質を通る距離」を表します。
濃度は、「溶液の濃度が濃ければ濃いほど、多くの光を吸収する」ことを示します。
この関係を利用して、光がどの程度吸収されたか、を濃度の指標にしようという発想です。
タンパク質の場合、多くは280 nmの吸光度を利用します。
上に書いたように、これは芳香族を持つPhe、Tyr、Trpの吸収です。
吸収を用いる際の注意点
最初に「純度が高い」ことを強調したように、この波長領域には多くの物質が吸収を持ちます。
例えば、核酸は260 nmをピークに広く吸収を持ち、280 nmまでも及びます。
よってこのような物質が混入すると、吸光度が大きく出るため正しい値が算出できなくなります。
もう一つ、そもそも目的タンパク質中に芳香族側鎖が少ない場合にも注意が必要になります。
吸光度自体が小さくなるため、誤差が大きくて定量性に難が出てしまいます。
自分の扱うタンパク質のアミノ酸の構成は「ProtParam」を用いると一覧することができます。
もし、吸収測定に合わない場合は、以下の比色定量法を使うほうが確実です。
吸収を使った濃度定量の利点・実際の利用法
吸収による測定は光を当てるだけなので、リアルタイムで測ることが可能です。
精製の際にはクロマトグラフィーを使うことも多いですが、どのフラクションにタンパク質が含まれているかを光の吸収から簡単にモニタリングすることができます。

比色定量法によるタンパク質定量
上の注意点で挙げたように、吸収分光法による定量ができない場合もあります。
その際には、少々手間はかかりますが、比色定量による定量法があります。
いくつか種類があるが、代表的なブラッドフォード法について紹介します。
他の方法に関しても、使う化合物が異なったり妨害物質の違いがあるものの、実験手順としては似たようなものになります。
ブラッドフォード法の原理
タンパク質に結合すると色が変わる(=波長が変わる)色素を添加し、どの程度色が変わったかを吸収分光法で測定します。
ブラッドフォード法の場合クマシーブリリアントブルーという色素を利用します。
(図:クマシーブリリアントブルーの構造式)
酸性条件下でタンパク質と結合すると、吸収波長が465 nmから595 nmにシフトします。
これを濃度既知のタンパク質(多くはウシアルブミンを使用)で検量線を参照して定量します。
↓検量線のイメージは下の感じです(本当はもう少しきれいになる…はずです)。
この検量線に、測定サンプルの吸光度を当てはめて濃度を算出します。
タンパク質であればなんでも反応するので、不純物として他のタンパク質が含まれていた場合は正確性が損なわれてしまいます。
その点は吸収分光法による定量と同様です。
吸収と比べた利点と欠点
利点
- 感度が10倍ほど高い。
→吸収で測定できなかったサンプルでも測定できる可能性があります。
- クルードなサンプルの総タンパク質量測定に用いることもできる
→細胞溶解液内のタンパク質量を見積もるのに用いることがあります。
酵素消化でタンパク質濃度との比を取ることで使用する酵素量を算出するときにも使用します。
欠点
- 方法により塩や界面活性剤の濃度に制限を受けることがあります。
→たとえばSDSは1%以内など。キットの説明書に条件が記載されています。
- 実験に時間がかかる。
→ここは光を当てるだけの吸収分光法には叶わない部分です。
といっても最近はキットも充実してきており、慣れればそこまでの欠点ではないかもしれません。
最後に
ランベルト・ベールの法則の内容(モル吸光係数など)の説明を省いてしまいました。
興味のある人は教科書やインターネットに解説があると思うので、調べて見るといいと思います。
特に生物をやっていると、数式に拒否感を持つこともあるかもしれません。
しかし、一見無秩序な生体分子の振る舞いが、数式で記述できるというのは面白いと思います。
少しでも数式から見るようにすると、基礎的な部分の理解が深まると考えています。
タンパク質を精製することができた場合、そのタンパク質がどのくらいあるのか、を知る必要がある。でなければ、「どの程度のタンパク質を使用して実験を行ったのか」が抜け、定量的な評価をすることができない。そのため、実験前にはタンパク質の濃度を定量する必要がある。対象の分子が酵素であれば、反応によって検出しやすい(色が出るなど)生成物をデザインできるのであれば、それを利用するにこしたことはない。「生成物のできる速度は酵素量に比例する」ことを利用すれば定量することができるためだ。
しかし、そのようなタンパク質ではない場合も多いのが現実ではある。その場合はどのように溶液中のタンパク質の量を知るとよいのだろうか?その方法をいくつか紹介しよう。
もしタンパク質が純度よく精製できているのであれば、分光法を使った定量法を使うことができる。「純度よく」というのは電気泳動した時に、バンドが目的タンパク質1本しか見えない状態というのが目安となる。この分光法を使った定量法を、簡単に原理から見ていく。
タンパク質の光の吸収はランベルト・ベールの法則に従う
溶液中に溶けている物質(溶質)の中には、特定の波長の光を吸収するものがある。
「その物質がどの程度光を吸収するか」を表す吸光度について、以下のランベルト・ベールの法則がある。

ここで、光路長とは、「光が溶質を通る距離」を表す。濃度に注目してみると、「溶液の濃度が濃ければ濃いほど、多くの光を吸収する」ことを示す。
この関係を利用して、「光がどの程度吸収されたか」を濃度の指標にしようという発想である。この関係式を用いるのに使用する測定波長として、アミノ酸の側鎖の中には紫外(UV)領域に吸収を持つものが存在することに注目する。それは芳香族を持つPhe、Tyr、Trpである。この辺の波長、多くは280 nmの吸光度を利用する。
吸収を用いる際の注意点
最初に「純度が高い」ことが条件であると述べたように、この波長領域に吸収を持つ物質は他にも多く存在する。例えば、核酸は260 nmをピークに広く吸収を持っており、280 nmにもばっちり吸光度を持っている。よってこのような物質が混ざっていると、吸光度が下駄を履くことになり正しい濃度が算出できなくなってしまう。
もう一つ、そもそも目的タンパク質中に芳香族側鎖が少ない場合にも注意が必要である。測定すれば、値は出るかもしれませんが、値が小さい場合は微妙な散乱などの人為的な誤差が大きく影響してしまうため、定量性としては難があると言わざるを得ない。その場合は、以下に示す比色定量法を使うほうが確実となる。
吸収を用いる利点・実際の利用法
吸収による測定は光を当てるだけなので、リアルタイムでの測定が可能となる。精製の際にクロマトグラフィーを使う人は多いが、溶出してきた液にタンパク質が含まれているかどうかをクロマトグラムでモニターする際にはまさに280 nmの吸収によって行っている。
比色定量法によるタンパク質定量
芳香族側鎖が少ない、あるいはタンパク質濃度が薄い場合、吸収分光法による定量が難しい場合は、少々手間はかかるが、比色定量による定量法を行うと言う手がある。
いくつか種類があるのですが、代表的なブラッドフォード法について紹介する。他の手法についても使う試薬が異なるのみで基本的な原理は同一である。還元剤や界面活性剤の使用などに制限があるので、自分の使用している溶液条件によって適切な測定法を選択する必要がある。
原理
タンパク質に結合すると色が変わる(=波長が変わる)色素を添加し、どの程度色が変わったかを吸収分光法で測定する。
ブラッドフォード法の場合クマシーブリリアントブルーという色素を利用する。

酸性条件下でタンパク質と結合すると、吸収波長が465 nmから595 nmにシフトする。これを濃度既知のタンパク質(ウシアルブミンを使う場合が多い)で検量線を作成して、定量する。
↓検量線のイメージ(本当はもう少しきれいになる…はず)

タンパク質であればなんでも反応するので、不純物として他のタンパク質が含まれていた場合は呈色反応が下駄を履いてしまうので、正確性が損なわれる。その点は吸収分光法による定量と同様に考えられる。
吸収分光法と比べた利点と欠点
利点
- 感度が10倍ほど高い。 →吸収で測定できなかったサンプルでも測定できる可能性がある。
欠点
- 方法により塩や界面活性剤の濃度に制限を受ける。→ たとえばSDSは1%以内など。キットを使用する場合、説明書に必ず条件が記載されるので要確認。
- 実験に時間がかかる。→ここはリアルタイムでもモニター可能である吸収分光法には叶わないところだろう。といっても最近はキットも充実しており、慣れれば実験の合間に定量することができる。
最後に
ランベルト・ベールの法則の内容(モル吸光係数など)の説明を省いた。興味のある人は教科書やインターネットに解説があると思うので、調べてみてほしい。
生物をやっていると、数式に拒否感を持つこともあるかもしれないが、一見無秩序に見える生体分子の振る舞いが、数式で記述できるというのは面白い。少しでも数式から見るようにすると、基礎的な部分の理解が深まるように感じている。
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