精製タンパク質の濃度を知る:分光分析によるタンパク質定量

分光分析によるタンパク質精製 タンパク質精製

タンパク質を精製したら、そのタンパク質がどのくらいあるのかを知る必要がある。
そうでないと、「どの数のタンパク質を使用して実験を行ったのか」が抜け、定量的な評価ができない。

<タンパク質の精製について>

タンパク質を宿主から安定的に取り出すために
研究者は微生物を用いて欲しいタンパク質を大量に作らせることができるようになった。微生物内で産生したタンパク質を取り出したいと考えたとする。もちろん微生物は生きるために、多種多様なタンパク質を発現させている。その中から、自分のほしいタンパク質のみを取り出さなければならない。そのためのステップが「精製」である。
タンパク質精製のための分画手法:塩析とクロマトグラフィー
タンパク質を精製するための大原則は、目的のタンパク質を他のタンパク質と分ける(=分画)。言葉にすると非常にシンプルではある。では、どう分けるのか?というのが今回の主題となる。「他のタンパク質」といっても、タンパク質も様々な性質を持つ。なので、目的タンパク質の性質に合わせて、精製法を考えていくべきである。

このことから、実験前にはタンパク質の濃度を定量することが必要となる。
対象の分子が酵素なら、検出しやすい(色が出るなど)生成物をデザインすれば良い。
「生成物のできる速度は酵素量に比例する」ことを利用すれば定量することができる。

しかし、そのようなタンパク質だけではないのが現実となる。
ではどのように溶液中のタンパク質の量を知るのだろうか?

もしタンパク質が純度よく精製できているのであれば、分光法を使った定量法が使える。

純度よく、というのは電気泳動のバンドが目的タンパク質1本だけが目安となる。
今回はこの分光法を使った定量法を、簡単に原理から見ていく。

吸収分光法を利用したタンパク質濃度定量

タンパク質の光の吸収はランベルト・ベールの法則に従う

溶液中に溶けている物質(溶質)の中には、特定の波長の光を吸収するものがある。
タンパク質の場合、芳香族を持つPhe、Tyr、Trpが紫外(UV)領域に吸収を持つ。

「その物質がどの程度光を吸収するか」を表す吸光度について、以下のランベルト・ベールの法則が成り立つ。

ランベルト・ベールの法則

ここで、光路長とは、「光が溶質を通る距離」を表す。

濃度は、「溶液の濃度が濃ければ濃いほど、多くの光を吸収する」ことを示す。
この関係を利用して、光がどの程度吸収されたか、を濃度の指標にしようという発想である。

タンパク質の場合、多くは280 nmの吸光度を利用する。
上に書いたように、芳香族を持つPhe、Tyr、Trpの吸収である

吸収を用いる際の注意点

最初に「純度が高い」ことを強調したように、この波長領域には多くの物質が吸収を持つ。

例えば、核酸は260 nmをピークに広く吸収を持ち、280 nmにも吸光度を持つ。
よってこのような物質が混ざっていると、正しい値が算出できなくなる。

もう一つ、そもそも目的タンパク質中に芳香族側鎖が少ない場合にも注意である。
測定はできても、人為的な誤差が大きく定量性があるとは言えないだろう。

自分の扱うタンパク質のアミノ酸構成は「ProtParam」を用いると一覧できる。

ExPASy - ProtParam tool

吸収測定に合わない場合は、以下の比色定量法を使うほうが確実である。

吸収を使った濃度定量の利点・実際の利用法

吸収による測定は光を当てるだけなので、リアルタイムで測ることが可能となる。
精製の際にはクロマトグラフィーを使う人が多いが、どのフラクションにタンパク質が含まれているかを光の吸収からモニタリングすることができる。

タンパク質精製のための分画手法:塩析とクロマトグラフィー
タンパク質を精製するための大原則は、目的のタンパク質を他のタンパク質と分ける(=分画)。言葉にすると非常にシンプルではある。では、どう分けるのか?というのが今回の主題となる。「他のタンパク質」といっても、タンパク質も様々な性質を持つ。なので、目的タンパク質の性質に合わせて、精製法を考えていくべきである。

比色定量法によるタンパク質定量

上の注意点で挙げたように、吸収分光法による定量ができない場合もある。

その際には、少々手間はかかりますが、比色定量による定量法がある。
いくつか種類があるが、代表的なブラッドフォード法について紹介する。

ブラッドフォード法の原理

タンパク質に結合すると色が変わる(=波長が変わる)色素を添加し、どの程度色が変わったかを吸収分光法で測定する。
ブラッドフォード法の場合クマシーブリリアントブルーという色素を利用する。

クマシーブリリアントブルーの分子構造

(図:クマシーブリリアントブルーの構造式)

酸性条件下でタンパク質と結合すると、吸収波長が465 nmから595 nmにシフトする。
これを濃度既知のタンパク質(多くはウシアルブミンを使用)で検量線を作成して、定量する。

↓検量線のイメージはこんな感じになる(本当はもう少しきれいになる…はず)。

検量線イメージ

この検量線に、測定サンプルの吸光度を当てはめて濃度を算出する。
タンパク質であればなんでも反応するので、不純物として他のタンパク質が含まれていた場合は正確性が損なわれる。
その点は吸収分光法による定量と同様となる。

吸収と比べた利点と欠点

利点

  • 感度が10倍ほど高い。

→吸収で測定できなかったサンプルでも測定できる可能性がある。

  • クルードなサンプルの総タンパク質量測定に用いることもできる

→細胞溶解液内のタンパク質量を見積もるのに用いることができる。
酵素消化で酵素量を算出するときなどに使用する。

欠点

  • 方法により塩や界面活性剤の濃度に制限を受けることがある。

→たとえばSDSは1%以内など。説明書に条件が記載されている。

  • 実験に時間がかかる。

→ここは吸収分光法には叶わない。
といっても最近はキットも充実してきているので、慣れればそこまでの欠点ではないだろう。

最後に

ランベルト・ベールの法則の内容(モル吸光係数など)の説明は省いた。
興味のある人は教科書やインターネットに解説があると思うので、調べてみてほしい。

生物をやっていると、数式に拒否感を持つこともあるかもしれない。
一見無秩序に見える生体分子の振る舞いが、数式で記述できるというのは面白いと考える。
少しでも数式から見るようにすると、基礎的な部分の理解が深まる。

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