タンパク質精製のための分画手法:塩析とクロマトグラフィー

タンパク質を精製するための大原則は以下となる。
目的のタンパク質を他のタンパク質と分ける(=分画)
言葉にすると非常にシンプルではある。

では、どう分けるのか?というのが今回の主題となる。

「他のタンパク質」といっても、タンパク質にも様々な性質が持つ。
なので、目的タンパク質の性質に合わせて、精製法を考えていくべきである
どんな性質を使うと、どんな精製法が考えられるのか、まずは一覧表で見てみよう。

タンパク質精製法の分類

性質で分けるとこのようになるが、ここではタンパク質の構造は考慮していない。
構造を保った状態で精製したい場合は、もう少し選択肢が限られてくる。

溶解度による精製:塩析

タンパク質には多くの荷電基があり、タンパク質が溶媒にどの程度溶解できるかは塩濃度や極性、pHや温度によっても変わってくる。

この溶解度の違いを活かして、分画するのが塩析という精製法である。
似た用語に塩溶があるが、この言葉の違いを整理しておこう。

塩溶

イオン濃度が低いときに塩を加えることで、タンパク質の溶解度が大きくなること
→イオンがタンパク質の周りの電荷を覆うため、タンパク質間の衝突が小さくなる。

塩析

多量の塩を加えたことで、逆にタンパク質の溶解度が低下する現象
→塩が多すぎるため、タンパク質を溶かすための溶媒が取られてしまうことが原因

塩析される塩濃度がタンパク質によって異なることを利用し、以下のように行う。

  1. 目的タンパク質が塩析する直前まで塩を加えて、不要タンパク質を沈殿
  2. 遠心や濾過で沈殿を除く。
  3. 後に目的タンパク質を沈殿させて回収する。

容量を多く処理できるため、大量のタンパク質の精製、濃縮に用いられる。
一方、一度変性させるため、タンパク質が機能を失う可能性もある。

塩析の際によく用いられる塩が硫酸アンモニウム(硫安)である。
硫安は溶解度が大きく、幅広いイオン強度を取れることがメリットとなる。
pHを目的タンパク質の等電点に調節することで、容易に沈殿させることができる。

溶解度が高いということであれば、塩化ナトリウムではダメなのか?と思ったが
どうやら溶解度だけでは説明できないようである。

ホフマイスター系列がヒントかなと思うが、現状理解がまだ追いついていない。

定番の分画手法:クロマトグラフィー

タンパク質の精製でよく使われる方法にはクロマトグラフィーがある。
分画したい溶液を移動相として、多孔質の固定相を詰めたカラムに流す。

固定相との相互作用の強さに応じて、移動相の移動速度が変わるので、分画ができる。
固定相とタンパク質の相互作用によっていくつかの種類に分けられるので、吸着方法と溶出方法について簡単に見ていく。

イオン交換クロマトグラフィー

担体にイオンを持つ官能基を付加することによって、反対電荷のイオンを吸着させる方法である。
よく用いられるイオンは以下のようになっている。

陰イオン交換体:陰イオンの多いタンパク質を精製するときに使用
主な担体:ジエチルアミノエチル(DEAE)

陽イオン交換体:陽イオンの多いタンパク質を精製するときに使用
主な担体:カルボキシメチル(CM)

溶出は塩濃度を上げる、またはpHを変えることで行う。

疎水性クロマトグラフィー

これは非極性残基による分別である。
タンパク質と固定層の間の疎水相互作用を利用するクロマトグラフィーとなる。

担体にはオクチル基やフェニル基を利用する。

高塩濃度では疎水効果が高まるため、吸着は高塩濃度で行う。
一方、溶離は多くは以下のいずれかの方法によって行う。

  • 塩濃度を下げる
  • 界面活性剤の濃度を上げる
  • pHを変える

ゲルろ過クロマトグラフィー

固定相→一定の大きさの孔を持つゲルビーズ

固定相を詰めたカラムに溶液を流すと、ポアサイズより大きい分子はビーズの外側を流れる。
しかし、小さい分子はポアの中を通るため、カラムを通り抜けるのに時間がかかる。
つまり大きい分子ほど溶出体積は小さくなる。

大きさで分けるこの方法は、溶出体積と分子量の対数の間におおよそ直線関係がある。
そのため、カラムにおける溶出体積と分子量既知タンパク質で検量線を作ることができる。

この検量線を用いて、溶出されたタイミングから、オリゴマー状態を予測することが可能となる。

アフィニティークロマトグラフィー

目的タンパク質と相互作用するリガンドなどを固定相に付加する手法。
上記の物理化学的性質を利用した精製より特異性が高いことが特徴となる。

主に以下の2種類に分けられる。

免疫アフィニティークロマトグラフィー

抗体を固定相に付加する。
タンパク質との結合が強すぎると溶離できず、弱いと精製度が落ちるので注意が必要となる。
溶離にはpHやイオン強度を変えて行う。

金属キレートアフィニティークロマトグラフィー

アミノ酸と金属との相互作用を利用。その中でもHisが相互作用が強いため、よく用いられる。

ポリヒスチジン(6xか10x:Hisタグと呼ぶ)をタンパク質のNかC末端に遺伝子工学的に付加する。
こうして、Hisタグの付いた組換タンパク質を作成し、Zn2+やNi2+を固定化した担体で精製する。

タンパク質の種類によらず気軽に利用できることから利用頻度は高い。

溶離にはHisの側鎖であるイミダゾールを用いた競合溶出を行う。
Hisタグの後ろにプロテアーゼの認識配列を付けることで、精製後にタグを切断することも可能となる。

ただし、Hisは多くのタンパク質に含まれるため、特異性は若干低くなる。
よって、ゲルろ過クロマトグラフィーと組み合わせて精製する場合が多い。

最後に

タンパク質の精製は、タンパク質研究の第一歩であり、必要かつ避けられないものとなる。

しかし、その過程は一筋縄ではいかないことも多い。
精製しても構造を保っていなかったり、どうしても不純物が除けなかったりと様々な問題が発生しうる。
そこが生体分子の難しさであり、如何に乗り越えるかが腕の見せどころでもある。

たくさんの試行錯誤を経て、経験や知識が蓄積されていくものである。
それを楽しめるかが、いちばん重要なのかもしれない。

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