以前のブログでも書いたとおり、私が面白そうと思った論文について紹介するというのを不定期にやっていこうと思います。
その時の記事はこちら↓
記念すべき第1回で紹介する論文はこちら。
Structure, 26, 580–589 (2018).
タイトルのまま「5-アミノレブリン酸合成酵素」の結晶構造を解いたことを報告しています。
雑誌もそのままで”Structure”です。
論文を見つけたときに率直に思ったことは「この酵素の結晶構造ってまだ解かれていなかったの?」ということです。
正確には真核生物由来のに関しては解かれていないということでしたが、そこから興味を持って読んでみました。
導入:5-アミノレブリン酸合成酵素って何?
そもそもなんの酵素だよ、ってところですね。
ほぼすべての生物に必要な分子である「ヘム」を合成するのに必要な酵素です。
ヘムを合成する際にはなんと8段階もの酵素反応が関与しています。
5-アミノレブリン酸合成酵素はヘム合成の1段階目の酵素であり、ここが律速段階になっています。
比較的メジャーと思われるヘムの合成に関わっており、さらに律速段階の酵素ということで、色々研究されているイメージがあったので、冒頭のような感想を抱きました。
しかし、実際はそうではなかったようですね。
酵素反応としては、ヘム合成の基質であるグリシン(Glycine)とスクシニル補酵素A(Succinyl-CoA)から5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid: ALA)を合成します。
Glycine + Succinyl CoA → ALA
以下5-アミノレブリン酸合成酵素は長いので、ALAS(5-aminolevulinic acid synthase)と表記します。
ALASは補欠分子族としてピリドキサールリン酸(PLP)を持ちます。
これまでは光合成細菌(Rhodobacter capsulatus)の結晶構造しか報告されていませんでした。
光合成細菌と真核生物のALASの違いは、真核生物にはC末端が35~60残基ほど長かったのです。
論文中では、これを”C-terminal extension”と表記しています。
筆者らはこのC-terminal extensionが酵素反応や表現型にどういう影響を与えているのかを知るために、真核生物のALASの構造解析を行いました。
結晶構造を解いたことによる構造的な考察
全体的にはすでに構造が出ている光合成細菌由来のALASの構造と似ていました。
構造はホモ二量体で片方はPLP付き、片方はPLPなしの構造が得られました。
アーティファクトなのかは記述がありませんでしたが、二量体間での相互作用の影響がありそうです。
酵素活性には片方にPLPがあれば十分ですが、両方PLPがある場合より、当然活性は落ちます。
PLPが有るか無いかで活性を調節しているとは考えづらいですが、どうなんでしょう・・・。
とはいえ、PLPの有無で構造に違いがないのかを探すと、一部の領域で大きな変化がありました。
以前の結晶構造と今回の結晶構造では共通する配列部分では構造的に似ています。
ということで、GlyやSuccinyl-CoAの結合に関してモデリングしています。
おおよそ先行研究と重なるので、あくまでモデリングではありますが、合致している格好になります。
過去に結晶が解かれたバクテリアALASと保存している残基がありますが、PLP-freeの構造ではこれらの残基のうちいくつかがしっかりとした構造を保っていません。
筆者らは、PLPの結合がGlyとSuccinyl-CoAを結合するような配置に構造変化させているのではないかと見ています。
構造変化に重要な水素結合の存在
次に筆者が注目したのが、活性部位付近の水素結合です。
その中でもあらゆる種で広く保存されている残基に注目しました。
これがC-terminal extensionの主鎖のカルボニルと水素結合を形成しています。
Succinyl-CoAと相互作用する残基の近くということで、この水素結合が重要な役割をしているのでは?と考えました。
ここが個人的に面白いところだと思ったのですが、今回注目した残基は基質との結合に直接関わっているわけではないことです。
ここに注目できたのは、かなりこの酵素にとってキモになるんじゃないかなと思いました。
結晶が解かれた意味もここで出てくるのではないでしょうか。
筆者らはこの水素結合を切るように設計した変異体を作製しました。
酵素活性を測定すると、劇的に減少しています。
水素結合の相手であるC-terminal extensionに関しても、一部を削ったALASを作製して検討しています。
手法に関しては酵母の生育、ALASの発現量、ALAの定量で見ています。
結果としては、削ったアミノ酸数で結果が変わっていました。
C末端の一部を削ったのみでALAの量は劇的に下がりますが、生育とALAS発現量はある程度削っただけでは問題なかったのです。
活性が下がっていて生存維持にギリギリの量しかALAを合成できなかったということでしょうか。
まとめ
C-terminal extensionをすべて削ってしまうとどうなるんだろうと思いましたが、これに関しては筆者らもトライしたようです。
しかし、タンパク質が不溶性となって精製できなかったようです。やはり安定性が落ちてしまうのですね。
今回の結果の生理的意義について、ほとんど言及されていないのが残念だなぁと思いました。
雑誌の方向性的には仕方がないことかなとも思いますが。
全体を通して、こんなに(自分にとっては)身近な酵素でも、作用機序に関しては実際あまりよくわかっていないというのが驚きでした。
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