等核二原子分子の分子軌道:第2周期の元素を例に

無機化学ノート

分子軌道を用いて、等核二原子分子の電子配置について考えてみる。

分子軌道理論の基本に関してはこの記事に記した。

原子軌道の拡張:分子軌道理論の基本

もちろん、結合の本数ならVB理論でも考えられる。
しかし、分子軌道を使えば、分子の性質をより深く考察することができる。

たとえば、酸素分子O2は常磁性を示すことが知られる。
なぜ常磁性を示すのかは、VB理論ではいくら考えてもわからない。
分子軌道理論を使用する必要がある。

本記事の要点
第2周期の元素の分子軌道
結合性軌道と反結合性軌道を「偶奇性」によって区別
g:重ね合わせた位相を反転させても同じになる
u:重ね合わせた位相を反転させると異なる
これに従うと
σg:結合性軌道 σu:反結合性軌道
πu:結合性軌道 πg:反結合性軌道
O2分子が常磁性
→HOMOに入る2個の電子が平行スピンを持つことに起因フロンティア軌道=HOMO+LUMO

第2周期の元素の分子軌道

原子芯の軌道ではなく、価電子の軌道に着目する。
つまり、第2周期の場合は2s、2p軌道について考える。

第2周期の二原子分子の最低基底系

最低基底系とは、分子軌道の形成に最小限必要な原子軌道の組である。

各原子が持つ軌道の合計が、分子軌道の数となる。
よって、s軌道1個とp軌道3個x2原子で、合計8個の原子軌道の組ができる。
ここからどんな分子軌道が作られるか?

核を結ぶ軸をz軸としてみる。

MO-z-orbital

軌道の名前に関しては、VB理論と同じものが使用される。

  • z軸に対して円筒状の対称性→σ軌道
  • z軸を含む節面を持つ→π軌道

加えて、もう一つ考えることが出てくる。それが「偶奇性」である。

分子軌道の名前の表し方:gとuによる偶奇性の区別

相互作用ごとに、結合性軌道と反結合性軌道を生成する。
つまり同じσ(π)軌道でも2種類の軌道がある。

この2種類の軌道を区別するために、下付きの添字gとuを使用する。
gとuの違いは、反転させても、反転前と同じ位相を示すかで区別される。
注意としては、この区別方法は結合性か反結合性かということ自体とは無関係である。

この違いは非常に重要である。
後で出てくるが、σ軌道かπ軌道かで「gとu」と「結合性と反結合性」の関係性が逆になる。
ここが混乱の原因になってしまう。

gとuはドイツ語でそれぞれ「偶」と「奇」を意味する
g:gerade u:ungerade
から来ている。

これだけではわかりにくいので、それぞれの軌道について具体的に見ることにする。

σ軌道を作る軌道

σ軌道を作りうる軌道→各原子のs軌道とpz軌道(←p軌道の中で唯一z軸方向を向いている)の4個

うち2個は2s軌道の相互作用、2個は2pz軌道の相互作用
下の図はs軌道同士だが、結合性軌道をσg、反結合性軌道をσuと表現する。

MO-sigma-gu

それぞれエネルギーの低い順に、1σg、1σu、2σg、2σuと4つの分子軌道が書ける。

π軌道を作る軌道

残り2個のp軌道はz軸を含む節面を持つ。
→となればπ軌道を形成することになる。

2個のpx軌道同士、py軌道同士が重なりを持ち、結合性と反結合性π軌道が作られる。
この2つのp軌道は同じエネルギー準位を持つため、二重に縮退している。

偶奇性の判定であるが、以下にあるように結合性軌道がuで、反結合性軌道がgである。
左は反転させると、位相が反転してしまうため、反転前と一致しない。
反対に、右は反転させても全く同じであるため、gと判定される。

MO-pie-ug

二重に縮退しているため、できる分子軌道は1πu、1πgの2つである。

分子の構成原理

原子の場合と似た構成原理を用いる。
エネルギー準位図を用いて、下から上(低い方から高い方)に向かって書く。

簡単に電子を収容するときのルールに関して書くと、以下のようになる。

  • 各軌道には2個までの電子
  • 同じ準位(1πuなど)の軌道が二つ以上ある場合は、電子は別々の軌道に入り、スピンは平行(↑↑)

となる。

第一周期元素の電子配置:パウリの排他原理

Li2~N2の電子配置-N2を例に

MO_Li2-N2

これを元に、たとえば10個の価電子を持つN2の電子配置を書いてみる。

N2:(1σg)2(1σu)2(1πu)4(2σg)2

MO-N2

O2, F2の電子配置-O2はなぜ常磁性を示すか?

MO-O2-F2

O2以降は、原子核の引っ張る強さと有効核電荷の関係から、1πuと2σgの準位が逆転する。
この順番の逆転に留意し、O2の電子配置を見てみよう。
O2は12個の価電子を持ち、以下のように書くことができる。

O2:(1σg)2(1σu)2(2σg)2(1πu)4(1πg)2

MO-O2

となる。

冒頭であったように、O2分子は常磁性を持つことについて考えてみる。

π軌道は2重に縮退してるため、4個電子が入れる。
O2の場合は1πg軌道に2個の不対電子が入るため、別々のπ軌道に平行なスピンで入る。

O2が常磁性を持つのは、平行なスピンを持つことで磁気と引き合うことによる。

第2周期の分子軌道まとめ

ここまでは、各分子内の軌道のエネルギーの上下関係にのみ注目していた。
分子間ではどうなっているかも簡単に見ていく。

当然、原子核の引き付ける力が強くなるに従い、軌道はコンパクトにまとまり安定化することになる。

以下の図は、概念的ではあるが軌道の関係を示したものである。
エネルギー幅など現実に即して書いたものではないが、傾向として示した。

MO-2nd-period

フロンティア軌道

分子軌道について考えるときに、しばしば目にかかる言葉がある。
分子の反応を見るときに、特に注目する軌道で以下のように定義される。

Frontier_orbital

HOMO(Highest occupied molecular orbital: 最高被占軌道):電子を順に入れていき、最後に電子が入った軌道

LUMO(Lowest unoccupied molecular orbital: 最低空軌道):HOMOの次にエネルギーの高い軌道(=電子の入っていない軌道の中で最もエネルギーの低い軌道)

HOMOとLUMOをまとめて、フロンティア軌道とよぶ。

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