硬い酸・塩基と軟らかい酸・塩基

HSAB則の説明 無機化学ノート

今回は硬い・軟らかいによる酸・塩基の分類について紹介する。
いわゆる「HSAB (Hard and Soft Acid and Base)則」とよばれる分類則である。

酸塩基の分類については以下の記事を参照。
酸と塩基の定義:ルイス酸塩基の反応

「硬い・軟らかい」という文字から、性質は容易には想像できないかもしれない。
錯体の形成能を考えるのに重要なので、ここでしっかりと整理しておこう。

「硬さ」の分類の起源

金属のハロゲン化物の錯体を作る強さが、金属(酸)によって正反対であった。

「硬い」酸の結合の強さの順序:I<Br<Cl<F
「軟らかい」酸の結合の強さの順序:F<Cl<Br<I

当然、気づいた当時は硬さによる分類はないが、このように概ね2つに分けられた。

硬い・軟らかいが生じる理由

この違いは大雑把にいうと、金属の分極の大きさの違いに起因する。

容易に分極しない小さいカチオン→「硬い」酸で小さいアニオンと錯体を作りやすい。
分極しやすい大きいカチオン→「軟らかい」酸で大きいアニオンと錯体を作りやすい。

※この分類は中性分子の酸・塩基にも適用可能。

硬さによる性質の違い

錯体の形成能がハロゲンによって差が出るのは相互作用の種類が違うためである。

硬い酸・塩基は小さな原子(分子)であるため、クーロン相互作用(イオン性の相互作用)が主体となる。

一方、軟らかい酸・塩基は大きな原子(分子)同士であることから共有結合性の強い錯体となる。

具体例で比較してみよう。

Ex.)(C2H5)2O:と(C2H5)2S:に対する錯体形成の安定性比較
→OとSではSのほうが原子半径が大きい

フェノール→(C2H5)2O:>(C2H5)2S:
より小さい(C2H5)2O:との結合→クーロン相互作用が強くなるため、フェノールは硬い酸

I2→(C2H5)2O:<(C2H5)2S:
より大きい(C2H5)2S:との結合→共有結合性が強くなるため、I2は軟らかい酸

一般的な酸・塩基の硬さの分類

これまではハロゲン化物イオンを中心に見た。
より一般化すると、酸が作る錯体の熱力学的安定性によって分類される(Rはアルキル基)。

硬い酸における結合の強さ:R3P<R3N, R2S<R2O
軟らかい酸における結合の強さ:R2O<R2S, R3N<R3P

塩基においても同じように硬い・軟らかいを定義することができる。

ハロゲン化物・オキソアニオン→たいていの錯体がイオン性=硬い塩基
CO, CNなど炭素原子を介して共有結合性の結合→軟らかい塩基

COやCNはπ酸として知られる特殊な電子対のやり取りを行う。
ここでは詳しく書かないが、機会があればまとめる。

単純にまとめると以下のようになる。

・硬い酸は硬い塩基と結合しやすい
・軟らかい酸は軟らかい塩基と結合しやすい

硬さの物理化学的な解釈

最後に、硬さとはどのような性質なのか、物理化学的な側面について書いておく。

上にも書いたように硬さを分ける主な要素は分子の大きさによる結合性の違いである。

「大きさ」が硬さに影響を与えるとはどういうことだろうか。
それは分極率である。

分極率が違うと、結合性の違いを生み、その結果硬さを分ける。

他にも、置換基間の立体反発、溶媒との競合など錯形成の反応ギブズエネルギーに影響を及ぼす要因も結合性の違いを生む。

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