多電子原子の電子配置(1):有効核電荷と遮へい

effective-nuclear-charge 無機化学ノート

前回の記事で、1s軌道に電子が入る水素やヘリウムについて紹介した。
次に、第2周期からの電子の入り方について見ていく。

主量子数に関して、3番目の電子から、すぐ上の電子殻(n=2)の軌道を占めなければならない。
n=1の場合はs軌道(l=0)しか持たないため、考えるのは容易であった。

しかしn=2になると、軌道角運動量量子数(l)が0(つまりs軌道)もしくは1(同p軌道)を取りうる。
ここで問題になるのは、第3の電子が占めるのは2sなのかそれとも3個の2pのうちのどれなのか?である。

つまり、2s軌道と2p軌道でエネルギーが低いのはどちらか、というのが問題である。

もちろん、この分野を勉強した方は2s軌道から電子が入ることをご存知の方も多いだろう。
では、なぜ2s軌道から入るのか?についていくつかの概念を導入して考えていく。

本記事の要点

有効核電荷
電子が実際に感じる電荷の大きさ

遮へい定数
核電荷に対する有効核電荷の差
つまり電子が周囲の電子との反発力をどの程度感じているか

貫入
電子雲が内側の殻に入り込むこと
s軌道の方が貫入が大きいため、有効核電荷が大きくなる。

Liの3個目の電子は2s軌道から埋まっていく
周期表の右に行くほど、有効核電荷は大きい

核の電荷と電子が感じる電荷の差:有効核電荷

s軌道とp軌道の二つの副殻のエネルギーと、同一原子内の他の電子の効果とを調べる必要がある。
無機化学では、電子の電荷が核の周りに球状に分布すると仮定して、電子間の反発を近似的に取り扱う。

重要なのは、電子が受ける引力は核の電荷には一致しないことである。

原子の中には他の電子もいるため、その電子からは反発力も感じることになる。
そのため、Li(陽子数Z=3)であるからといって、電子は+3の引力を感じるわけではない。

電子配置から、電子同士の反発を考慮して電荷の強さを考える必要がある。
そこで、他の電子との反発を差し引きし、電子が感じる実際の電荷を表す有効核電荷Zeffが用いられる。

effective-net-charge
図.有効核電荷の考え方

有効核電荷は電子の属する軌道によって変わる:遮へい定数

あとに示す表からもわかるが、有効核電荷は電子がどの位置にいるかによっても変わる。
つまり、同じ元素(核電荷)でも、2s軌道と2p軌道では有効核電荷は異なる。

電子が核の近くまで入り込めれば入り込めるほど、原子中の他の電子によって反発される度合いが少なくなるから、その電子の感じるZeffはZに近くなる。

他の電子により有効核電荷が真の核電荷より小さくなることを遮へいという。

有効核電荷を真の核電荷Zと経験的な量である遮へい定数σを用いて
Zeff=Z-σ
と書き表すことがある。

電子の安定性を決める「貫入」

さて、次は2s電子の電子雲の形について考えてみる。

2s電子の場合、電子雲が1s殻の内側まで入り込んで核の電荷をそのまま感じる機会がある。
(図があればわかりやすかったが、いい図が見つからなかった・・・)
ある1つの電子が他の電子のつくる殻よりも内側に存在することを貫入という。

2p軌道の電子の存在確率は核の位置で0になる。
2p電子は内側の殻を通って貫入することはない。
言い換えると、2p電子は1s軌道にある電子によって核から強く遮へいされている。
(こちらも図・・・いい図があれば追記します)

よって、2s電子の方が2pよりエネルギーが低く、強く核に引きつけられている。
それゆえ、2s軌道は2p軌道よりも先に電子に占められることになる。

このことから、Liの基底状態電子配置は(1s)2(2s)1であると結論できる。

周期表から見る有効核電荷の傾向

この電子配置は[He](2s)1と書くことが多い。ここで[He]は、ヘリウムの電子配置(1s)2を表す。
[He]のように、最外殻より内側にあるこれ以上電子が入らない完成された殻を芯という。

以降の電子に関しても同様に考えることができ、nsはnpよりエネルギーが低い。
このことは、いろいろな原子の基底状態電子配置における原子価殻の原子軌道に対するZeffの値からも見ることができる。

表.第2周期までの有効核電荷table-effective-net-charge

周期表内の有効核電荷に関する一般的傾向として、各行の左から右にいくに従って有効核電荷は増加する。
これは、核電荷も(元素の場合)電子も同じだけ増えるが、ほとんどは電子の増加分では核電荷の増加を打ち消しきれないためである。

最も外側の殻のs電子は、同じ殻のp電子より遮へいの程度が小さい。
Ex) F原子の2s電子ではZeff =5.13なのに対し、2p電子ではこれより低くZeff =5.10である。

最後に:単純な例で概念を押さえる

今回は第2周期の元素について、s軌道とp軌道の電子の入る順番について見てきた。
色々な用語を織り交ぜて展開したため、まどろっこしさを感じた人もいるかもしれない。

まだ第2周期は電子配置も単純な方なのですんなりいくが、この後遷移元素が含まれるd軌道に拡張していくとまた複雑になっていく。
ここで、しっかりと概念を押さえてほしい。

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