前回から多電子原子の電子配置について見ている。
前回の記事では第2周期までの元素についてまでしか取り上げていなかったが
第3周期(3p軌道が閉殻になる)までは同じように説明できる。
問題は第4周期。ここから少しふるまいが違ってくる。
端的にいうと、電子が入る軌道の順番がこれまでと入れ替わる。
貫入・遮へいの効果というのはきわめて微妙なものである。
軌道の順番は原子中の電子の数やイオン化によって左右され、遷移元素としての性質につながっている。
ということで、今回は第4周期からの電子配置を見ていく。
電子の収容順番における逆転現象
3dよりも4sのほうが電子が先に入る
s軌道の貫入効果の結果、3d軌道よりも安定化
3d軌道の電子
CrとCuに注意
→4s軌道から3d軌道に電子が移動
dブロック元素のカチオン
4s軌道の電子が取り去られ、dnの電子配置のみを取る。
第4周期の電子配置:収容順番の逆転現象
まずは、今回注目する元素の電子配置の一覧を見てみよう。
図1 カリウムから亜鉛までの電子配置(閉殻の部分は省略)
まず注目すべきはカリウム(K)とカルシウム(Ca)である。
思い出してほしいのは、主量子数n=3の軌道にはs軌道、p軌道に加えてd軌道がある。
それなのに、KやCaはn=4に電子が存在するのである。
これは3d軌道よりも4s軌道の方が、エネルギーが低いことを意味する。
前回の記事の内容を思い出してほしいが、同じ主量子数では貫入効果はs軌道が最も強くなる。
この恩恵を受け、4s軌道が1つ下の主量子数の3d軌道よりも安定化されるという逆転現象が起こる。
3d金属の電子の収容
以上から、4s軌道に2個の電子が先に収容される。
その次は3d軌道に電子が入っていくわけであるが、d-ブロック元素でも考えるべきことが出てくる。
ここで注意すべきは、あくまでエネルギー準位というのは個々の電子軌道に注目することによって決まるということである。
実際には他の電子と共存しているため電子間の反発を考慮に入れねばならない。
それを顕著に示す例をこれから紹介する。反発を嫌って電子が移動するのである。
上でも載せた電子配置一覧を再び示す。
図1 カリウムから亜鉛までの電子配置(閉殻の部分は省略)
赤く強調されているクロム(Cr)と銅(Cu)はよく見ると、ほかと少し違う電子配置になっている。
4s軌道から3d軌道に電子が1個移っているのである。
どうしてこのようなことをする必要があるのだろうか。
以下のように見てみるとわかりやすいかもしれない。
図2.3d軌道と4s軌道間の電子の移動
そのまま法則通りいくと、3d軌道にはCrで4個、Cuで9個の電子が入ることになる。
ここで考えることは、2つある。
- 同じ軌道に入っている電子の間には反発力がはたらく。
- d軌道は半分または完全に埋まっているほうが安定である。
この結果、4s軌道から3d軌道に電子が移ったほうが、全体として安定なかたちになる。
Crでは3d軌道のすべての電子が同じ向き(↑)で入っているが、これはフントの規則を適用したものである。
よってCrは基底状態ではd4s2ではなく、d5s1であるし、Cuはd9s2ではなく、d10s1である。
3d元素のイオン(カチオン)の電子配置
3d元素の場合、元素そのものよりもイオンになった状態を考えることが多い。
3d軌道に電子が十分に充填されてくると、軌道が安定化される。
イオンになると、電子が取り去られ、カチオンとなる。
電子が取り去られることによって、電子間反発の効果が減少するため、複雑なことを考えなくて良くなる。
4s軌道の電子から取られていき、すべてdnの電子配置を取る。
例えば、鉄(Fe)は[Ar](3d)6(4s)2であるが、
Fe2+は[Ar](3d)6となる。
最後に:dブロックの遷移元素の性質の基礎となる電子配置
今回見たdブロック元素は遷移元素として多彩な性質を持つ。
電子配置について理解していると、その性質についても理解しやすくなるだろう。
本記事を作成する際、以下の記事を参考にした。
希土類元素の物理化学 第2回:希土類元素の電子配置
合わせて読んでいただくと、より理解が深まるだろう。
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