共有結合の種類と混成軌道:昇位と混成

無機化学ノート

化学結合では電子の動きが重要である。

復習したい方はこちら→化学結合の種類:概論

イオン結合では電子が出入りすることで電荷ができた。
共有結合は文字通り、結合する2原子間の電子の共有である。

次に注目すべきは、軌道の重なり合い方である。
ここでは、軌道角運動量量子数(s軌道、p軌道など:水素型原子の電子スピンを復習!)による軌道の形自体については触れない。

それよりも、原子同士の結合と、分子の形を決める元となる理論について触れていく。

本記事の要点

原子の結合

  • σ結合:原子核を結ぶ線の内側で軌道が交わった際にできる結合
  • π結合:上記の線の垂直方向に伸びる軌道の重なり合いによってできる結合

不対電子が共有結合に関与
不対電子2個の炭素原子はなぜ4本のσ結合を形成できるか?

この矛盾を解消する理論が「昇位」と「混成」

  • 昇位:s軌道の電子が1個空のp軌道に移動する
  • 混成:近い電子軌道が混合しあい、新たな軌道を生成すること

原子の結合の種類

ここで「結合」といっても、2種類に分類される。
核同士を結ぶ直線に対して、電子雲がどの方向に対称性を持っているのかで分類する。
σ結合とπ結合である。それぞれを紹介しよう。

σ結合

σ結合は二つの核を結ぶ直線に対して円筒の対称性がある。
つまり、2つの核の間に電子雲が重なり合う領域ができる。

この核の方向を向く電子雲は干渉し合うことによって、強め合う事ができる。
こうしてできる結合がσ結合である。

結合の中では、電子雲の重ね合わせが大きいため、強い結合ができる。

π結合

他にも、核を結ぶ直線と垂直方向に伸びる軌道を持っている場合がある。
この電子雲も方向が合っている軌道同士で重なりができる。
こうしてできる結合がπ結合である。

σ結合に比べると、重ね合わせが少ないので、結合は弱いものとなる。

電子雲から見る結合の具体例

ここからは具体的な分子から見ていく。

σ結合のみを持つ分子

σ結合のみの場合、1本の共有結合である。
ここでは、二原子分子を取り上げ、等核のものと異核のものを紹介する。

等核二原子分子

たとえば水素H2について見てみる。

sigma-bond

何度かこのブログでもみているように、水素は1s電子を1個もつ。
2つの水素のs軌道の電子は核を結ぶ直線上で重なり合うので、σ結合を形成する。

s軌道は同心円状の軌道なので、σ結合のみ形成できる。

異核二原子分子

塩化水素HClについて。
Hは上で見たようにs軌道に電子を持っている。
一方、Cl原子は以下の電子配置を持ち、3p軌道に1つ空きがある。
Cl:[Ne](3s)2(3px)2(3py)2(3pz)1

そこで、Clはpz軌道に空きを作ることによって、H原子とσ結合を作ることができる。

HCl-sigma-bond
当然、px,pyに空きを作ってもH原子にはその方向に電子が存在する確率が無いため、結合は作ることはできない。

σ結合とπ結合の両方を持つ分子

二重結合以上を持つ分子はσ結合に加えて、π結合を形成する。
ここでは三重結合を作るN2について見る。

窒素Nは3本の2p軌道に1個ずつ電子が収容されている。
N:[He](2s)2(2px)1(2py)1(2pz)1

そのうちの1つpz軌道は結合軸に向かって電子軌道が伸びており、σ結合を形成可能である。

nitrogen-sigma-bond

残りのpx、py軌道が核を結ぶ線と垂直方向にある。
それらは、もう一方のNのpxあるいはpy軌道とπ結合を形成する。
よって、π結合は2本形成される。

nitrogen-pi-bond

これでσ結合一本とπ結合二本で三重結合を形成することができた。

矛盾:昇位と混成

電子軌道の重なりから、共有結合の形成に関して見てきた。
この考え方を原子価結合(Valence-bond:VB)理論という。
一見すると、VB理論ですべて説明できそうだが、ところがそうはいかない。

たとえば炭素Cの電子配置は以下である。
C:[He](2s)2(2px)1(2py)1

今までの感じで見ると、炭素は2p軌道を使って、2本のσ結合を作る・・・でいいのだろうか?
この炭素を含む化合物であるメタンCH4は4本のσ結合を作っている。

この矛盾をうまく説明するために新たな概念を導入する必要があることがわかる。
それが「昇位」と「混成」である。

昇位と混成

VB理論の欠陥を埋める概念:(1) 昇位

昇位(Promotion)は電子を高エネルギーの空軌道に励起して持ち上げることである。
当然高エネルギーの軌道に置くため、エネルギーを投資する必要がある。

昇位

わざわざエネルギーを投資してでも、昇位が起こるのはいくつかメリットがあるからである。

電子間反発の減少

炭素の場合2s軌道に2個の電子が埋まっており、電子間反発が生じる。
しかし、電子を1個2pz軌道に移すことによって、反発を解消できる。

2s軌道の電子1個を空軌道である2pz軌道に励起させることで、電子配置が

(2s)2 (2px)1 (2py)1 → (2s)1 (2px)1 (2py)1 (2pz)1

となり、不対電子が4個となる。

新たなσ結合形成による安定化

昇位によって、不対電子が4個になる。
これで、1つの疑問が解消する。
炭素が4本のσ結合を作る事ができるのは、不対電子が4個になるためである。

そして、まさに4本のσ結合を作ることができるのが2つ目のメリットである。

結合が2本と4本では安定化エネルギーが大きく異なる。
昇位によって、多少エネルギーが必要になるが、σ結合形成による安定化で容易に回収できる。

今回見たように、炭素を含む14族の元素はメリットが大きいため、昇位によって4本の結合を形成するという特徴がある。

ns軌道の電子間反発が軽減されるため、昇位に必要なエネルギーはごくわずかで済むためである。

VB理論の欠陥を埋める概念:(2) 混成

炭素が4本のσ結合を作ることができるようになることがわかって一件落着!
・・・というわけにはいかない。

昇位のみでは、2sと2pでエネルギー準位の異なる2種類の結合ができているような印象を与える。
しかし、メタンCH4では4本の結合に結合長、強さ、形に差はない。

ここで、もう1つの概念「混成」が加わってくる。
昇位によってできた1個の2s軌道と3個の2p軌道が混合しあい、新たに「4本の混成軌道」を作ったと考える。

混成

混成によってできた4つの新たな軌道

混成によって、対象の4本の軌道は同じエネルギー準位を持つようになる。
そのエネルギー準位は2sと2pの間を取る。

メタンの炭素の場合は1つのs軌道と3つのp軌道が混成に関わるので「sp3混成軌道」とよぶ。
読み方としては「えすぴーすりー」と読む。

各軌道が干渉して強め合う

混成によって、新たな軌道が形成される。
混成軌道は正四面体の頂点方向を指す大きなローブと、その反対方向を指す小さいローブを持つ。
それぞれの軌道のなす角は正四面体角109.47°でメタンの結合角と一致する。

混成のもう一つの特徴として、核間領域の振幅が強められ、明確な方向性を持つ。
この方向性はs軌道がp軌道の正の位相と干渉しあって強め合うことに起因する。
その結果、単独のs軌道やp軌道のときよりも結合は強くなる。

今回はsp3混成軌道のみ取り上げたが、分子形に応じて様々な混成軌道が用いられている。

最後に:電子軌道の形から結合に関する深い理解を得る

σ結合やπ結合に関してみてきた。
σ結合が強く、π結合は弱い結合と書いたことから、π結合は脇役?と思うかもしれない。

しかし、結合軸から垂直に伸びた軌道であることから、共役系を作ることによって原子を飛び越えて電子を非局在化させることで、分子を安定化する、などπ結合も十分に重要な寄与をしている。
これもいずれまとめてみたい。

混成軌道も典型元素、遷移元素と幅広く見られる考え方である。
分子の形を理論的に記述できることから面白い分野だと思う。

コメント