免疫系による異物の排除と免疫チェックポイント阻害剤

免疫による異物の排除 科学コラム

今週ノーベル生理学医学賞が発表されました。
受賞者はJames P. Allison博士と本庶佑博士の2名に決まりました。

“For their discovery of cancer therapy by inhibition of negative immune regulation”
「負の免疫制御の阻害によるがん治療法の発見」に関する業績が認められての受賞です。

この研究成果は現在がんの治療薬として役立っています。
そのうちの1つが小野薬品工業株式会社から出ている「オプジーボ」。
薬価の問題が数年前から出ていることで聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

私も多分に漏れず、薬価のニュースから知りました。
しかし、免疫系に関しては全くの素人なので、どんな薬なのかは全く知りませんでした。

名前だけ知っているままそのまま年月が過ぎてました。
そして、今週のノーベル賞の発表でまた思い出し、気になって調べてみたくなりました。

そこで、調べた内容を今回の記事にまとめてみます。
専門の方から見たら内容が浅いと思うので、若干ためらいもありますが参考になれば幸いです。

発表に際し、免疫系を車に例えていました。
この例えがわかりやすかったので、記事でも使っていこうと思います。

上述の通り、私は免疫は全く専門外です。
情報に関しては間違いがないように調べたつもりです。
しかし、勘違いや理解不足なところもあるかもしれないので、あくまで参考程度に読んでいただければと思います。

がん治療における免疫系への注目

近年はがんを発症する人が増えています。
日本でも死因の1/3ががんであることが言われています。

現在、がんの治療方法として主なものに外科手術、放射線治療、化学療法があります。
これらの治療はまだがんが転移していない段階では治療効果があります。
しかし、がんが進行し、転移をしてしまうと治療が追いつかなくなり太刀打ちできなくなります。

そのため、新たな治療法の確立が望まれており、注目されたのが免疫系です。

免疫系の働き方

免疫の基本は自己と非自己を見分け、非自己のみを排除することです。

免疫系は外来の微生物に対して十分攻撃できるよう備える一方、過剰に活性化することによって自己の健康な細胞や組織を傷つけることのない(自己免疫)ように取り計らう必要があります。

この機能があるので、バクテリアやウイルスなどの侵入に対して対抗でき、病気の発症を防げます。
そのときにメインで働くのが、T細胞抗原提示細胞(Antigen-presenting cells:APC)です。

外来性の抗原の記憶:抗原提示細胞(APC)

APCはMajor Histocompatibility Complex(MHC)という遺伝子領域を持っており、免疫を働かせる際に外来性の分子を記憶するために必要な領域です。

細菌や毒素などの外来性の抗原を取り込んだら、エンドサイトーシスによって小胞内に取り込み、プロテアーゼによってペプチド断片に分解します。
そのペプチドを結合させるのがMHC領域が発現するMHC分子です。

MHCは細胞表面に存在する糖タンパク質で、T細胞に対して抗原として様々なペプチドを提示する役割があります。
この提示は1回侵入した分子を記憶し、次回の侵入の際に免疫をすばやく働かせるのに役立ちます。

免疫系におけるエンジン:T細胞

白血球の1つであるT細胞には、非自己であるものを認識するための受容体(T cell receptor: TCR)を備えています。
この受容体はAPCに発現しているMHCが提示した非自己の抗原と結合することで、免疫システムが発動します。

いわば、TCRとAPCが持つ抗原の結合によって、T細胞という車のエンジンがかかります。
しかし、車を発信させるためにはアクセルを踏まなければなりません。

そのため、T細胞のアクセルを踏む役割を持つ別の因子も必要とされます。
その因子はT細胞に存在するCD28です。
CD28はAPCに存在するB7分子(CD80)と結合することでT細胞の活性化、つまりアクセルを踏みます。

上の絵で、T cell accelaratorに相当するのがCD28です。

さて、簡単にですが、免疫系について見ていきました。
次からノーベル賞の受賞理由に関わる部分に関して見ていきます。

免疫系の急な発進を防ぐサイドブレーキ:CTLA-4

免疫系においてサイドブレーキのような役割を持っているものがJames P. Allison博士が関わったCTLA-4(cytotoxic T lymphocyte antigen 4)です。

前述のCD28が単離された年と同じ年に、CTLA-4(当時はCD152ともよばれた)はクローニングされました。
発見当時はCTLA-4の機能は明らかになっていませんでしたが構造的にCD28に似ていることから免疫グロブリンのスーパーファミリーの1種と考えられていました。

CTLA-4はT細胞の休止状態では細胞内に存在しますが、活性化すると膜に移動します。
制御型T細胞(Treg)では膜タンパク質として恒常的に発現しています。

CTLA-4はCD28と同様にAPCに発現するB7に結合しますが、その親和性はCTLA-4の方が高く、また、CTLA-4がB7と結合すると免疫系を負に制御することがわかったのです。

当初この発見から、他の研究チームはCTLA-4を自己免疫疾患の治療のターゲットとして考えていました。
しかし、Allison博士は全く異なる考えを持っていました。
それについて発表したのがScience誌に1996年に発表した論文[1]です。

がんになったマウスに対して、CTLA-4の抗体を投与することによってがんのサイズが小さくなっていくことを発見したのです。
これはCTLA-4の阻害がT細胞のサイドブレーキを外し、免疫系を活性化させてがん細胞を攻撃することでがんが小さくなったものと考えられています[1]。

この文献はノーベル賞のプレスリリースのKey Publicationの1つに挙げられています。

[1] Leach, D. R., Krummel, M. F. & Allison, J. P. Enhancement of Antitumor Immunity by CTLA-4 Blockade. Science (80-. ). 271, 1734–1736 (1996).

この研究は免疫治療の新たな概念を提唱しました。
モノクローナル抗体を投与することによってがんに対する免疫力を高める、現在では免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれるものです。

その後の研究によって、複数のタイプのがんに対し、効果があることがわかりました。
そして、1999年にMDX-010のちにイピリムマブと呼ばれる抗CTLA-4 IgG1モノクローナル抗体が開発されました。

敵と味方を区別し、味方への攻撃を防ぐブレーキ:PD-1

AllisonがCTLA-4を発見する数年前の1992年に本庶博士のチームはT細胞の表面に発現するタンパク質であるPD-1(CD279)を発見したと発表しました。
当初はアポトーシスの制御に関与していると考えられたため、Programmed cell DeathからPDと名付けられました。

また、ORFから膜貫通領域があることが予想されましたが、実際は全く異なり、免疫グロブリン遺伝子のスーパーファミリーでした。

本庶博士らはその後PD-1の機能として、CTLA-4と同様にT細胞のブレーキとして働くことを明らかにしました。ただ、その作用機序はCTLA-4とは異なっていました。

また、PD-1のリガンドとしてPD-L1を発見しました。
PD-1/PD-L1による免疫応答について調べた論文[2]では、PD-L1分子をがん細胞に発現させました。
PD-L1分子を発現した細胞が免疫系から逃れた一方、PD-L1の抗体を投与すると、反対の挙動を示しました。

[2] Iwai, Y. et al. Involvement of PD-L1 on tumor cells in the escape from host immune system and tumor immunotherapy by PD-L1 blockade. Proc. Natl. Acad. Sci. 99, 12293–12297 (2002).

これよりPD-1はPD-L1への結合により、T細胞の活性化にブレーキをかけることが明らかとなりました。

PD-1の役割として敵と味方を区別するのに役立っていると考えられます。
T細胞の活性が高すぎると、味方も攻撃してしまう危険性があります。

そのため、攻撃すべきものではない味方の細胞に関してはPD-L1を認識することで、攻撃しないようにブレーキをかけていたのです。

しかし、困ったことにがん細胞でもPD-L1を発現していました。
そのため、T細胞は本来攻撃すべきがん細胞をも味方だと思いこんで、ブレーキをかけてしまいます。

そこに着目して開発されたのがオプジーボであり、PD-L1への結合を阻害する抗体(抗PD-1抗体)によって免疫系のブレーキを外す薬剤です。

CTLA-4やPD-1のような分子を「免疫チェックポイント分子」とよび
イピリムマブやオプジーボのように、免疫チェックポイント分子の活性を阻害する薬を「免疫チェックポイント阻害剤」とよびます。

ノーベル賞の受賞には、免疫を負に制御する分子の発見と、その薬剤への応用という点が評価されてのものです。

最後に

特にPD-1については機能が長い間わからず、地道に探した結果が免疫療法のブレイクスルーにつながりました。

ノーベル賞の発表に伴い出されるScientific Backgroundにも”originated in basic, curiosity-driven research, not primarily oriented towards cancer”と記載されています。
まさに基礎研究の成果が実ったと言えるでしょう。

私も今は基礎研究の現場にはいませんが、自分の中から湧き出る疑問と興味を大事にしたいと改めて思いました。

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