核と電子の綱引き:原子半径とイオン化エネルギーの傾向

無機化学ノート

2018/5/24更新 イオン化エネルギーの説明にあった誤りを修正しました。

有効核電荷は、電子を引きつける強さに関連するパラメータである。
この有効核電荷と電子の引っ張り合いがわかるパラメータとしてイオン化エネルギーがある。

しかし、イオン化エネルギーは有効核電荷以外にも考えなければならないことがある。

その1つが原子半径である。そこで、まず原子半径の定義や周期表内での傾向について紹介する。
次にイオン化エネルギーについて見ていく。

本記事の要点
原子半径:共有結合の分子中における隣接原子間距離の半分
イオン半径:隣り合うカチオンとアニオンの中心間の距離
原子半径の傾向
同族→下に行くほど大きい 理由:電子殻の増加
同周期→右に行くほど小さい 理由:有効核電荷の増加による電子の引き寄せ
イオン半径→アニオン:増加、カチオン:減少
イオン化エネルギー:原子から電子を1個取り去るのに必要なエネルギー
考えるポイント

  • 電子がどの軌道に収容されているか
  • 最外殻軌道に2個の電子が収容されている軌道がないか

原子半径

原子半径と言った場合には以下の2つについていう。

金属結合半径:単位固体中の最近接原子の中心間距離の1/2
共有結合半径(非金属元素):同一元素の分子中における隣接原子間距離の1/2
→今回考えるのは共有結合半径である。

イオン半径:隣り合うカチオンとアニオンの中心間の距離。
イオンは必ず異種間の結合なので、一方が決まらないともう一方が決められない。
そこで、O2の距離を140 pmと定めて対イオンの半径を算出する場合が多い。

原子半径の周期表内での傾向

周期表の順に傾向を見て取ることができる。図にすると一目瞭然だが、以下のように表せる。

同族:下に行くほど原子半径は大きい。
占有している電子殻の数(主量子数)が増えるから。

同周期:右に行くほど原子半径は小さい。
右に行くほど、有効核電荷が増加するので、電子が引き寄せられるため。

-原子半径の傾向

他にもイオン化した場合にも原子半径が変わる。
遷移金属などは、原子よりもイオンになったときのことを考えることが多いため、これも抑えておいてほしい。

アニオン:電子が加えられることで、電子間反発が強まる。
→Zeffが減少しイオン半径は大きくなる

原子半径-アニオン

カチオン:電子が除かれることにより電子間反発が弱まる+価電子がなくなって閉殻構造となる。
→Zeffが増加し、イオン半径は小さくなる

原子半径-カチオン

イオン化エネルギー

原子半径に相関するパラメータとしてイオン化エネルギーがある。
原子から電子を1個取り去るのに必要なエネルギーである。

半径が大きいと中心から遠くなるので、核電荷の影響を受けにくくなりイオン化エネルギーは下がる。
よって、厳密には原子半径と有効核電荷によって決まる。

言うなれば、イオン化エネルギーは電子を取るための綱引きに勝つために必要なエネルギーである。
相手の強さ(有効核電荷)とどの位置で綱を引っ張るか(原子半径)と例えられる。

このため、これも周期表の順に大まかには傾向が見て取れる。
しかし、考えるべき要素がまだあるため、ここでは2つの例から考えてみることにする。

BeとB:電子の入る軌道

1つ目はベリリウム(Be)とホウ素(B)である。

下の表にあるように、原子番号3のBeよりも原子番号4のBの方が有効核電荷Zeffが大きい。
しかし、イオン化エネルギーIは有効核電荷の大きいBのほうが小さい。

イオン化エネルギーと有効核電荷-BeとB

つまり、相手の電子を引きつける力が強いにも関わらず、綱引きに大きなエネルギーがいらないことになる。

一見、矛盾しているように感じるが、電子配置を考えることで説明することができる。

Beは価電子が全て2s軌道に収容されている一方、Bでは2p軌道に1つ電子が入っている。
有効核電荷のところでも紹介したが、2p軌道は2s軌道よりもエネルギーが高い。

↓復習する場合はこちら

多電子原子の電子配置(1):有効核電荷と遮へい

そのため、電子を取り去るのが2s軌道よりも容易になる。
なので、Bの方がイオン化エネルギーIは低くなる。

BeとBでは、取り去る対象となる電子が収容されている軌道が異なるのである。

NとO:同じ軌道に入る電子の数

2つ目は窒素(N)と酸素(O)である。

これもまず表で有効核電荷とイオン化エネルギーの値を見てみよう。
当然、原子番号の大きいOの方が有効核電荷Zeffは大きい。
反対に、イオン化エネルギーはOの方が小さく、電子が取りやすいことになる。

イオン化エネルギーと有効核電荷-NとO

電子配置は
N:[He](2p)3 O:[He](2p)4
であり、どちらも2p軌道に電子が入っている。では何が違うのか。

ここで注目すべきは、上図のOの欄であからさまに強調している赤い電子である。
これが大事ですといわんばかりである。

Oは3つある2p軌道のうちの1つに2個電子が入っている状態である。
同じ軌道に2個電子が入っていると、電子間反発が強くなるため少し居心地が悪くなる。

この反発力が核電荷の増加分を上回っているためOのイオン化エネルギーは小さくなる。
つまり、Oのイオン化エネルギーは図中の赤い電子を取る際に必要なエネルギーに対応する。

このケースにもあるように、半分(=今回の場合は3つの2p軌道に1個ずつ)満たされている副殻は中途半端に電子が入っているよりは、比較的安定である。

以前見たdブロック元素で、CrとCuの電子配置も副殻を半分満たすために電子が動いた。

多電子原子の電子配置(2):dブロック元素
前回から多電子原子の電子配置について見ている。第2周期までの元素についてまでしか取り上げていなかった。これは第3周期(3p軌道が閉殻になる)までは同じように説明できる。 問題は第4周期からになる。ここから少しふるまいが違ってくる。

この性質は、分子の特徴を考える上で重要なファクターであると言える。

最後に:イオン化エネルギーは周期表の順には単純に相関しない

BeとB、またNとOの例でみたように、単純に有効核電荷だけを比べても、イオン化エネルギーの傾向は説明できない。
電子配置を把握して、以下のことについて考える必要がある。

  • どの位置に電子がいるか
  • どの軌道に電子が収容されているか
  • 最外殻の軌道に複数の電子が入っていないか

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