酸と塩基の反応は化学反応の基本事象である。
では、何をもって酸と塩基を定義するか。
定義にはいくつか種類があるので、それらの違いを簡単に紹介する。
そして今回は、最も汎用的に使われる「ルイスの定義」についてまとめていく。
酸と塩基の定義方法
酸と塩基の場合分けをする場合に使われる用語といえば
- アレニウスの定義
- ブレンステッドの定義
- ルイスの定義
がある。
すべて、系中の酸・塩基を論じる上で使うことができる。
しかし、それぞれ定義できる範囲が異なっている。
アレニウスの定義は水系の反応にしか用いることができない。
水との反応によってプロトンを発生する分子を酸、水酸化物イオンを発生する分子を塩基とするためである。
一方、ブレンステッドの定義は非水系でも用いることができるが、プロトンの授受を伴う反応のみである。
プロトンを受け取る分子を酸、プロトンを放出する分子を塩基と定義した。
もちろん、こうするとプロトンの授受を伴わない反応に関しては定義ができない。
そこで、今回中心的に取り上げるのがルイスの定義である。
ルイス酸塩基は電子の授受によって判断するので、電子移動があれば扱うことができる。
そしてプロトンの授受には電子の移動が伴うので、ルイスの定義はブレンステッドの定義を包括する。
ここで、用語の使い方であるが、ルイス酸塩基とよぶのは主に平衡反応を扱うときである。
反応速度を取り扱うときで用語が異なることがある。
用語については、以下の図でまとめた。
ルイス酸塩基を考えるにあたって
ルイス酸塩基を論じるにあたっては、以下の4つの可能性に着目する。
1つずつ見ていくことにする。
オクテット則を満たすか
オクテット則は「最外殻の電子が8個(=希ガスと同じ電子配置)となる」法則をいう。
不完全なオクテット則を持つ分子は、他の原子から電子対を受け入れてオクテットを完成することを目指す。
例として、二酸化硫黄SO2とトリアルキルアミンの反応を挙げる。
金属が配位化合物を作るか
金属のカチオンは、塩基が供給する電子対を受け入れて配位化合物を作ることができる。
これは多くの例があるが、中心金属がルイス酸性で配位子がルイス塩基性を示す。
価電子の配置を変えて電子を受け入れることができるか
完全なオクテットを持つ分子またはイオンは、その荷電子の配置を変えて、さらに1つの電子を受け入れることができる。
Ex.) CO2 OH–イオンから電子対を受け入れて、HCO3-を生成する→CO2はルイス酸分子
この場合は、酸素原子上の電子を非局在化させることによって、炭素はもう一つ酸素と結合を作ることができる。
原子価殻を拡張することができるか
イオンはその原子価殻を拡張(サイズによってはそのままでも)して、もう1つの電子対を受け入れることができる。
Ex) SiF4 二つのF–イオンを受け入れて、[SiF6]2-錯体を生成
ルイス酸塩基を扱う基本反応
ルイス酸塩基の定義が役に立つ場面について例を挙げながら解説していく。
錯形成
A+:B→A-B
となるような反応である。
三酸化硫黄SO3とアセトンが錯形成を行うと以下のようになる。
錯形成に関与する分子は、単独でも安定な物質である場合もある。
実際、上記の三酸化硫黄、アセトンはともに単独でも安定である。
ルイス錯体は塩基のHOMOと酸のLUMOが新たに分子軌道を形成することによって結合を作る。
新しく分子軌道が生成することによって、塩基のHOMOの電子が結合性軌道に収容される。
一方、反結合性軌道は空のままなので、全体としてエネルギーは下がることになる。
よって、この錯形成は発熱的である。
置換反応
B-A + :B’ → :B + A-B’
BがB’に置換される反応。
塩基が置換される場合も、酸が置換される場合もある。
d金属において、錯体中の配位子の1つが他の配位子に入れ替わるのも置換反応とよぶ。
複分解反応
メタセシスともよぶ。
要するに酸塩基のパートナーの交換反応のことである。
A-B + A’-B’ → A-B’ + A’-B
これは、塩基:B’による塩基:Bの置換が、酸A’による:Bの引抜きによって促進される。
Si(CH3)3I + AgBr (s) → Si(CH3)3Br + AgI(s)
塩基I–が塩基Br–で置換される
→生成するAgIは水に溶けにくいため、反応がどんどん促進される。
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